8・9月号

第18回フォーラムを開催 コロナ後の小規模企業を取り巻く環境と今後の課題[2022年8・9月号]

全国青色申告会総連合は令和4年度定時会員総会終了後、日本政策金融公庫総合研究所の藤井辰紀氏を講師として、第18回フォーラムを開催しました。講演の要旨を紹介します。

企業はどう対処すべきか

新型コロナウイルス感染症がまん延を始めた令和2年、当研究所は小規模企業経営者の方々にコロナの影響をおたずねしました。程度の差はありますが、売り上げが減ったと回答した方が8割ぐらい。しかし、増えたと答えた方もいました。売上増の割合が多かったのは巣ごもり消費や感染予防に関する業種でした。

業種による影響の違いを整理するため、縦横の軸で市場を4つに分けたのが図表1です。縦軸は接触の有無、横軸は必需性が高いか、嗜好性が高いかです。接触の少ない上半分の分野は感染リスクが低く、どちらかといえば追い風、接触をともなう分野は向かい風だったのではないかと思います。右側の嗜好性が高い分野は不要不急といわれることが多く、需要の変動が大きい。左側は必需性が高く、需要が変動しにくい分野です。ご自分の事業が4つの象限のどこに属するかを考えてみると、対処の方向性が見えてきます。
象限ごとに対策を考えてみます。非接触×必需品(左上の象限)は、必要以上に需要が伸びることはなくとも、安定した売り上げが期待できます。品不足による機会損失が起きないよう、供給体制を整えることが肝要です。ただし、参入が増えると供給過剰になるおそれがありますので、最終的には、同じ分野の中でも高付加価値路線にシフトするほうが望ましいでしょう。
2つ目は、非接触×嗜好品(右上)です。ここはお客さんのニーズを捉えることで伸びる余地も大きい。ただし、競争も激化していきますから、他社との差別化を図る工夫が求められます。
3つ目は、接触×必需品(左下)です。ここは向かい風ではありますが、需要はさほど減りません。その需要に対応できるよう、感染防止対策をおこない、事業の継続に主眼を置きます。そして、他社に顧客を奪われないように囲い込むことです。
4つ目は、接触×嗜好品(右下)です。コロナ禍によるマイナスのインパクトが一番大きかったのは、この象限でしょう。需要の減少が大きく、少なくとも平時の稼働状況に近づける工夫は欠かせません。様々な事例がメディアでも紹介されたように、飲食店ならパーテーションの設置やテイクアウトへの対応など、できることから手を打つ必要があります。
もっとも、ここまでの対策はあくまでノーマル、すなわち平時に近づけるためのものにすぎません。しかし、コロナ禍を乗り越えたとしても元の世界に戻る保証はありません。社会あるいは経営環境が大きく変わったニューノーマルの世界になり、それに対応していくことが求められる。だとすれば、企業経営においては、回復を目指すだけにとどまらず、環境変化を踏まえた新たな事業の創出にも目を向けたいものです。

ポストコロナを見すえた事業創出の勘所

では、どうやって事業を創出すればいいでしょうか。ヒントをご紹介する前に、商品がヒットするための2つの前提を挙げます。最初の前提は、背景にはニーズかウォンツがあるということです。ニーズとは、なければ困るもの、解決したい困り事です。ウォンツとは、あると嬉しいもの、いわゆる欲求です。少なくともこのどちらかを満たす商品でなければ、大きくは売れません。2つ目の前提は、そのニーズやウォンツは変化から生まれるということです。通常、需要と供給はバランスしていますが、何らかのショックが起こると需要と供給のバランスが崩れます。そのギャップにこそ、ビジネスチャンスが潜んでいます。これらの前提を踏まえたうえで、新事業創出のヒントを3つほど挙げます。
1つ目のヒントは、本業の隣接地を狙うことです。自社の既存事業と無関係な領域を探す必要はありません。よく見回せば、いたるところに困り事はあるはずです。自社が持つ経営資源でその困っている人たちを助けられないか、と考えるわけです。自分の会社ができること、自社の強みを生かすことがポイントになります。
2つ目のヒントは、マイナスをプラスに転換することです。一見すると弱みに見える要素も、見方を変えると強みになることがよくあります。立地が目立たないお店であれば、隠れ家的雰囲気という発想に転換してみる。古い建物だったらレトロと言い換える、といった具合です。
3つ目のヒントは、打ち手を重ねることです。先が不透明である以上、リスクを抑えるためには大振りはできません。小さな実験を繰り返し、行きつ戻りつ、打ち手を重ねていくことが、結果的には成功の近道かもしれません。

存在感を増す小規模企業

小規模企業は大企業と比べると不利といわれた時代もありましたが、風向きは変わりつつあると感じます。その理由について、図表2で順を追って考えてみましょう。

小規模企業には、規模の小ささと数の多さという特性があります。そして規模の小ささは、さらに①生産性の低さ②柔軟性③頑健性といった特性を生みます。スケールメリットを生かしにくいという点は弱みかもしれません。しかし、組織がシンプルで小回りが利く柔軟性や、固定費が少なく、採算ラインを低く抑えているため頑健であるといった特性は、小規模企業の強みともいえるでしょう。
数の多さは、①多様性②遍在性という特性につながります。事業内容や働き方などの異なるたくさんの企業が層を成すことで、多様性が生まれます。遍在性とは、全国のいたるところに存在しているという意味です。消費者の身近に存在し、ラストワンマイルの需要にしっかり対応できるのが、遍在性を持つ小規模企業ならではの強みであるといえます。
これらの特性があるからこそ、社会において果たせる役割があります。柔軟性と多様性があるから、消費者や労働者の多様なニーズの受け皿となれる。頑健性と遍在性があるから、社会基盤の担い手となれる。そしてこれらの役割を果たすことで、小規模企業は社会に個性と持続可能性という価値をもたらすのです。
しかも、これからの社会における構造変化は、小規模企業にとって追い風です。技術の進歩やネットの普及といった環境変化がそれまでの弱みを補完し、小さくてもできることは拡大していきます。そして少子高齢化や地域活性化など、重要度が増している社会的課題を解決するうえでは、小規模企業の強みが生きます。小さいからこそ、あるいは数が多いからこそできることへの期待が広がっていくわけです。こうした変化を踏まえ、このコロナ禍を逆風ではなく、追い風に変えていただくことができればと切に願う次第です。

(文責在記者)


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ID   : aoiro
パスワード: 機関誌「BLUE RETURN 青色申告」 3ページ「滄流」下部に記載
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