個人事業主の消費税

消費税は複数税率(標準税率10%、軽減税率8%、旧税率8%など)のため、消費税を納税する事業者は取引の内容や適用される税率ごとに取引を区分して記帳し、申告・納税を行います。個人事業者の記帳や申告のポイントをご確認ください。

軽減税率制度の導入による複数税率、適格請求書等保存方式(インボイス制度)の導入など、大きな制度変更が続くため、全面的に書き換えました。(2022(令和4)年7月)

◆ 青色申告会では個人事業者のための消費税の講習会や個別相談会を開催しています。詳しくはご地元の青色申告会にお問い合わせください。


◆ インボイス発行事業者の登録を迷われている免税事業者の方は、こちらもご参照ください。青色申告会会員の免税事業者の方向けに案内しているリーフレットです。

消費税の基本的なしくみ

消費税(地方消費税を含む、以下同じ)は、消費一般に広く課税される間接税です。商品やサービスの生産から流通、販売の各段階で価格に転嫁(てんか)され、最終的に消費者が負担します。


各段階の事業者は、売上げのさいに預かった消費税から、商品の仕入れや諸経費等の支払いのさいに支払った消費税を差し引き、その差額を申告・納税します。

基本的な納付税額の計算のしかた


個人事業者の場合は、1月1日から12月31日までの1年間(課税期間)の取引をもとに、その課税期間の翌年3月31日(3月31日が土日の場合は翌月曜日)までに、税務署に確定申告を行い、あわせて消費税を納付します。

災害にあったときなどを除き、消費税の確定申告期限は延期できません。また、消費税には所得税のように延納制度がありません。期限後の納税には、延滞税も納付する必要がありますので、気を付けてください。

消費税が課税される取引と課税されない取引

消費税はすべての取引にたいして、課税されるわけではありません。課税取引(消費税が課税される取引)は、次の課税取引の4要件をすべて満たし、非課税取引(消費税の課税対象になじまないものや社会政策的な配慮から消費税が課税されない取引)でも、免税取引(輸出取引など消費税が免除される取引)でもない取引です。

課税取引の4要件(国内取引の場合)

課税取引の4要件をひとつでも満たしていない取引は、不課税取引(国外で行われる取引など消費税の課税対象にならない取引)になります。

1)国内において行う取引であること
2)事業者が事業として行う取引であること
3)対価を得て行う取引であること
4)資産の譲渡、資産の貸付け、役務(サービス)の提供であること

非課税取引、免税取引、不課税取引の具体例

取引区分 取引の具体例
非課税取引 土地の譲渡や貸付け、住宅の貸付け、健康保険制度での医療など、学校の授業料・入学金など ほか
免税取引 輸出取引、国際輸送・国際電話・国際郵便、免税店(輸出物品販売場)での販売 ほか
不課税取引 個人事業税・固定資産税・印紙税・自動車税などの租税公課、祝金・見舞金など現金で支出する接待交際費、減価償却費、青色事業専従者給与や給与・賃金 ほか

軽減税率8%の取引

消費税率は標準税率10%と軽減税率8%の複数税率です。軽減税率8%の対象品目は、次の2種類です。

① 飲食料品(酒類と外食を除きます)

飲食料品とは、人の飲食用に供される食品表示法に規定する食品をいい、酒税法に規定する酒類と外食などを除きます。

② 新聞(週2回以上発行される新聞の定期購読契約に限ります)

新聞とは、政治、経済、社会、文化などに関する一般社会的な事実を掲載し、週2回以上発行する定期購読契約にもとづくものをいいます。

小規模な事業者にたいする負担軽減制度

小規模な事業者にたいしては、納税事務負担を軽減する次の2つの制度があります。

① 事業者免税点制度

消費税が課税される売上げ(課税売上げ)がある事業者(個人、法人)は、原則として納税義務者です。ただし、その年(課税期間)の前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下の小規模な事業者は、原則としてその課税期間の納税義務が免除される免税事業者になります。
基準期間と課税期間(個人事業者の場合)

※1 基準期間の課税売上高には消費税が課税される取引の売上金額(雑収入等を含む)のほかに、事業用資産の売却代金を含みます。また、売上返品、売上値引、売上割戻等の金額がある場合は、これらの合計額を控除した残額になります。
※2 基準期間の課税売上高が1,000万円以下であるか否かを判断する場合、基準期間が課税事業者であるときは消費税額を差し引く計算(税抜処理)が必要です。基準期間が免税事業者であるときは税抜処理をおこないません。
※3 基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、その課税期間の前年1月1日から6月30日までの間(特定期間)の課税売上高または給与等の支払額が1,000万円を超える場合には、その課税期間は課税事業者になります。

② 簡易課税制度

消費税の納税額の計算は、原則として売上げにかかった消費税額から仕入れや諸経費などにかかった消費税額の実額を控除する一般課税により計算します。ただし、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の小規模な事業者は、簡易課税により計算することができます。

簡易課税とは、実際の仕入れや諸経費などで支払った消費税額を計算することなく、売上げにかかった消費税額に事業区分によって異なる「みなし仕入率」を乗じて計算した金額を、仕入れ等で支払った消費税額とする簡便な方法です。
簡易課税での納付税額の計算のしかた

事業区分と「みなし仕入率」は次のとおりです。どの事業区分に該当するかは、事業全体ではなく、個別の取引ごとに判定します。たとえば飲食店の場合、店内飲食は飲食店業(第四種事業)、店内で調理した飲食料品の持ち帰り販売は製造小売業(第三種事業)になります。なお、店内飲食は外食で標準税率10%、持ち帰り販売は軽減税率8%ですから、事業区分と適用税率ごとに記帳し、それぞれ集計できるようにしなければいけません。

事業
区分
みなし
仕入れ率
該当する主な事業内容
第一種事業 90%
◆卸売業(購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に販売する事業)
第二種事業 80%
◆小売業(購入した商品をその性質、形状を変更しないで消費者に販売する事業、製造小売業を除きます)
◆農業・林業・水産業のうち飲食料品の譲渡の部分
第三種事業 70%
◆農業・林業・水産業のうち飲食料品の譲渡以外の部分
◆製造業(製造小売業を含みます)、建設業、鉱業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業など
第四種事業 60%
◆飲食店業
◆加工賃などを受けとり役務を提供する事業
◆事業用固定資産の売却収入など
第五種事業 50%
◆運輸通信業、金融業、保険業およびサービス業(飲食店業を除きます)
第六種事業 40%
◆不動産業


簡易課税により申告・納付を行いたいときは、次の点に注意します。

簡易課税の注意点

〇 一般課税で納付税額を計算すれば還付となる場合であっても、簡易課税を選択した場合は還付を受けることはできません。
〇 個人事業者が簡易課税を選択するときは、適用を受けようとする課税期間の前年12月31日までに税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出します。ただし、選択届出書を提出していても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える課税期間は一般課税により申告・納付を行います。
〇 簡易課税は、原則として2年間継続して適用しなければなりません。また税務署に「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しない限り、選択の効力は継続します。

消費税にかかわる経理処理

納付税額を正しく計算するためには、消費税にかかわる取引内容を記載した帳簿を作成し、取引の証拠書類である領収書、請求書、納品書などとともに保存しなければなりません。

① 経理方式

消費税の経理処理には、売上げや仕入れなどの金額に消費税を含める税込経理方式と消費税を含めない税抜経理方式のふたつがあります。いずれの場合でも納付する消費税額は同じです。事業者はどちらを選択してもよいことになっていますが、選択した方法は原則として、すべての取引に適用しなければなりません。ただし、免税事業者は税込経理方式を適用しなければなりません。
税込経理方式と税抜経理方式の違い(複式簿記での仕訳例)

② 帳簿への法定記載事項

課税事業者は、帳簿に次の法定記載事項を記録しなければなりません。

帳簿の法定記載事項

1)取引の相手方の氏名または名称
2)取引を行った年月日
3)取引内容
4)取引金額
※1 不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業、駐車場業等については、記載事項のうち「取引の相手方の氏名または名称」および「売上返品等に係る相手方の氏名または名称」の記載を省略することができます。
※2 小売業その他これに準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業者の現金売上げに係る資産の譲渡等については、課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に区分した日々の現金売上げのそれぞれの総額によることができます。
※3 簡易課税を選択している事業者は、記載事項のうち「仕入返品をしたり、仕入値引きや仕入割戻し等を受けた場合」および「課税貨物に係る消費税額の還付を受けた場合」の記載を省略することができます。

③ 帳簿および請求書等の保存期間

帳簿および請求書等は、7年間保存する必要があります。ただし、6年目と7年目については、帳簿または請求書のうちいずれか一方を保存すればよいことになっています。

請求書等の記載

一般課税による消費税の納付税額の計算上、仕入れにかかった消費税額を差し引く(仕入税額控除)ためには、請求書等と帳簿の保存が必要です。

① 区分記載請求書等保存方式(令和5年9月末まで)

現行の区分記載請求書等保存方式では、請求書等(領収書や納品書、小売事業者等が交付するレシートなど取引の事実を証する書類が含まれます)に次の事項を記載します。なお、❻軽減税率の対象品目である旨❼税率ごとに合計した対価の額(税込み)の記載がない請求書等を受け取った場合は、受け取った事業者が取引事実にもとづいて❻と❼を追記することができます。

※1 小売業、飲食店業、タクシー業など不特定多数の者に対して販売等を行う一定の事業の場合は、請求書受領者の氏名または名称を省略しても差し支えありません。
※2 1回の取引において課税仕入れの金額(税込み)が3万円未満の場合や課税仕入れの金額(税込み)が3万円以上で請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合(自動販売機を利用して課税仕入れをおこなったときなど)は、請求書等の保存は必要ありません。なお、やむを得ない理由がある場合には、帳簿にそのやむを得ない理由および相手方の住所または所在地を記載します。

② 適格請求書等保存方式(令和5年10月1日から)

令和5年10月1日から適格請求書等保存方式(インボイス制度)がはじまります。適格請求書等(インボイス)には、次の記載事項が定められています。下線の項目があらたに加えられた内容です。

※1 小売業、飲食店業、タクシー業など不特定多数の人に販売等を行う一定の事業の場合は、請求書受領者の氏名または名称を省略する適格簡易請求書等を交付することができます。
※2 適格請求書等の交付を受けることが困難な場合(自動販売機から購入する場合や中古品販売業者が消費者から仕入れる場合など)は、適格請求書等の保存がなくても、帳簿の保存により仕入税額控除をすることができます。
※3 区分記載請求書等保存方式にあった支払対価の額が3万円未満の課税仕入れについて請求書等の保存を不要とする規定は廃止されます。3万円未満の課税仕入れであっても、帳簿の保存により仕入税額控除が認められる場合を除いて、適格請求書等の保存が必要です。
※4 課税事業者は、適格請求書を発行できない免税事業者などからの課税仕入れについて仕入税額控除をすることができません。なお、適格請求書等保存方式導入より一定期間は、免税事業者からの課税仕入れについても、仕入税額相当額の一定割合を控除できる次の特例が設けられています。

区分記載請求書等保存方式と適格請求書等保存方式との違いを、請求書等を発行する立場(売り手)と受け取る立場(買い手)で整理すると次のとおりです。

区分記載請求書等保存方式と適格請求書等保存方式の違い

区分 令和5年9月末まで
区分記載請求書等保存方式
令和5年10月1日から
適格請求書等保存方式
 売り手 免税事業者も区分記載請求書を交付することができます。 適格請求書を交付することができるのは、事前に登録された適格請求書発行事業者に限られます。免税事業者は適格請求書を交付することができません。
 買い手 区分記載請求書および帳簿の保存が一般課税による仕入税額控除の要件となります。 適格請求書および帳簿の保存が一般課税による仕入税額控除の要件となります。

③ 適格請求書発行事業者の登録申請

適格請求書を交付することができるのは、税務署の登録を受けた適格請求書発行事業者に限られます。適格請求書発行事業者になるには、税務署に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出します。課税事業者であっても申請手続きは必要です。個人の免税事業者が登録を受けるには、一定の期日までに消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になり、適格請求書発行事業者の申請手続きをおこないます。
※1 適格請求書等保存方式が導入される令和5年10月1日から登録を受けるためには、令和5年3月31日までに申請書を提出する必要があります。
※2 免税事業者が令和5年中に登録を受ける場合、次の経過措置が適用されます。
〇 消費税課税事業者選択届出書を提出する必要がありません。
〇 登録を受けた日から課税事業者になることができます。
〇 消費税簡易課税制度選択届出書に令和5年分から適用を受ける旨を記載して令和5年中に提出すれば、簡易課税を適用することができます。

適格請求書等保存方式について、詳しくは国税庁ホームページのインボイス制度特設サイトでご確認ください。
また、消費税全般について、詳しくは国税庁ホームページ掲載の消費税のパンフレット・手引等でご確認ください。


■ 国税庁ホームページ「インボイス制度特設サイト」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm
■ 国税庁ホームページ「消費税のパンフレット・手引等」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/01.htm#a-06

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