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個人事業者のインボイス対策(第1回) 免税事業者の検討・準備のポイント [2022年8・9月号]
令和5年10月1日から導入されるインボイス制度について連載します。第1回は消費税の納税義務が免除されている個人事業者が検討と準備をおこなうポイントです。
インボイス制度とは
適格請求書等保存方式(インボイス制度)は、売り手から適格請求書等(インボイス)が交付されている仕入れや経費の支払い(課税仕入れ)だけが、申告時にその消費税を税額計算に算入できる仕組みです(
図表1)。インボイスがない課税仕入れは、その消費税額を控除できませんので、消費税の納税額が増えることになります。
※ インボイス制度導入より一定期間は、インボイスがない課税仕入れについても、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。
インボイスを発行できる事業者
インボイスを発行できる事業者は、税務署に申請書を提出して適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の登録を受け、登録番号を付与された課税事業者に限られます。免税事業者はインボイスを発行できません。免税事業者が登録を希望する場合は、みずから課税事業者になることを選択しなければいけません。
※ その年(課税期間)の前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、その年の消費税の納税義務が免除されますが、課税事業者を選択すると納税義務は免除されません。
インボイス制度の導入で予想されること
① 免税事業者の場合
販売先や請負業務の元請け先などがインボイスの交付を求める課税事業者の場合は、インボイスを発行できないことで取引を見直される恐れがあります(販売先が消費者であればインボイスは求められません)。
② 課税事業者の場合
仕入先や業務の下請け先などがインボイスを発行できない免税事業者の場合は、自身の消費税の納税額が増える可能性があります(後述の簡易課税を選択している場合は増えません)。
免税事業者が検討するべきポイント
① インボイス発行事業者になるか否か
免税事業者は、販売先などが事業者なのか、消費者なのか、事業者と消費者が混在するのかなどをふまえ、次の㋐と㋑のいずれがよいかを検討します。
㋐ 課税事業者を選択してインボイス発行事業者になる
インボイス発行事業者になれば、課税事業者である販売先などとの取引が継続できる可能性が高くなりますが、消費税の申告、納付が必要な課税事業者になりますので、それにともなう記帳、消費税の負担が生じます。また、税負担を取引価格に転嫁できなければ、利益が減少することになります。
㋑ 免税事業者のままでいる(インボイスは発行できません)
消費税の記帳、申告、納付は免除されますが、販売先などが課税事業者であれば、取引を見直される可能性があります。取引を継続できるよう、取引条件などを相手先と相談してください。
② 課税事業者を選択したら、どのように消費税を記帳して納税するか
納付税額の計算方法(一般課税と簡易課税)に応じた記帳をおこないます。次の㋒と㋓のいずれがよいかを検討し、必要な記帳の準備をおこないます。手書き帳簿であるならば、この機会にパソコン会計を導入することも検討します。
㋒ 一般課税(原則)で申告する
一般課税では図表1のとおり、課税売上げにかかった消費税から実際に課税仕入れにかかった消費税を差し引き、納付税額を計算します。売上げ、仕入れや経費の支払いなどについて、課税や非課税などの税区分、税率を記帳します。
㋓ 簡易課税(特例)で申告する
簡易課税は、課税売上げにかかった消費税に事業区分に応じたみなし仕入率をかけた金額を課税仕入れにかかった消費税額とみなす簡易な方法です(図表2、図表3)。
その年(課税期間)の前々年(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、税務署に消費税簡易課税選択届出書を提出して適用することができます。
簡易課税を選択すると、課税仕入れにかかるインボイスの保存が不要になります。記帳は、課税売上げについてのみ、事業区分などや税率を記録します。
[カテゴリ:シリーズ,消費税,帳簿,確定申告][2022年8・9月号 10-11ページ掲載記事]