8・9月号

個人事業者のインボイス対策(第5回)インボイス交付のポイント[2023年8・9月号]

インボイス発行事業者の義務

インボイス発行事業者には、原則として次の義務が課されます。

〇 取引の相手方(課税事業者に限る)の求めに応じて、インボイスを交付する。
〇 売上げに係る対価の返還等をおこなう場合は、返還インボイスを交付する。
〇 交付したインボイスに誤りがあった場合は、修正したインボイスを交付する。
〇 交付したインボイスの写しを保存する。

※ 交付するインボイス、保存するインボイスの写しは電子データに代えることができます。

インボイスを交付しなくてもよいとき

インボイスを交付することが困難な以下の取引は、交付義務が免除されます。
① 鉄道、バス、船舶による旅客の運送(税込み3万円未満のものに限る)
② 自動販売機などでおこなわれる商品の販売など(税込み3万円未満のものに限る)
③ 郵便切手を対価とする郵便サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)
④ 出荷者などが卸売市場でおこなう一定の生鮮食料品などの譲渡
⑤ 生産者が農業協同組合、漁業協同組合または森林組合などに委託しておこなう一定の農林水産物の譲渡

返還インボイスを交付するとき

返品や値引き、支払期日前に支払いを受けたことによる売上割引、数量や金額に応じて支払う売上割戻(いわゆるリベート)などを「売上げに係る対価の返還等」といいます。その金額が税込み1万円以上のときは、返還インボイス(適格返還請求書)を交付します (図表1)。


※ 買い手が振込手数料相当額を差し引いて代金を振り込み、売り手が負担した手数料相当額を売上値引として処理する場合も売上げに係る対価の返還等になります。その額が税込み1万円未満であれば、返還インボイスの交付は免除されます。
※ 前月の売上げに係る値引きと当月の売上げがある場合は、当月の売上げに係るインボイスと前月の売上げに係る返還インボイスの2つを交付する必要があります。この場合、インボイスと返還インボイスに記載が必要な事項すべてを、1枚の書類に記載して交付することもできます。なお、継続して当月の売上げから前月の売上げに係る値引きを差し引いた金額およびその金額から算出した消費税額等を記載することもできます(図表2)。

修正したインボイスを交付するとき

インボイス(簡易インボイス、返還インボイスを含む)に誤りがあったとき、インボイス発行事業者は修正したインボイスを交付する必要があります。この場合、誤っていた点を修正してすべての事項を記載した書類をあらためて交付するか、誤りのあったインボイスとの関連性を明らかにした上で修正した箇所のみを明示した書類(図表3)を交付します。
※ 簡易インボイスとは、相手先名が省略できるなど記載内容が簡略化されたインボイスで、小売業、飲食店業などで交付が認められています。

交付したインボイスの写しを保存するとき

個人事業者のインボイス発行事業者は、交付したインボイス(簡易インボイス、返還インボイス、修正インボイスを含む)の写しを、原則として交付した年の翌年3月1日から7年間保存します。写しは、インボイスそのものの複写物のほか、一日の取引についてインボイスの記載事項が確認できるレジのジャーナル(集計)、記載事項の一覧表や明細表などでも差し支えありません。また、手書きの領収書では、カーボン複写も認められます。
なお、自身が一貫して電子計算機を使って作成したインボイスについては、電子帳簿保存法にもとづいて一定の要件のもと、作成した電子データで保存することができます。

委託販売などにおける媒介者交付特例

他者に販売を委託するときなどは、委託者である事業者と販売・取次ぎなどをおこなう受託者(媒介者)である事業者の双方がインボイス発行事業者の場合、一定の要件のもと、委託者に代わって媒介者が自己の氏名または名称および登録番号を記載したインボイスを交付することができます。
[カテゴリ:シリーズ,消費税,帳簿,確定申告][2023年8・9月号 10-11ページ掲載記事]
list page