10・11月

個人事業者のインボイス対策(第6回)仕入税額控除と税額計算のポイント [2023年10・11月号]

一般課税の仕入税額控除の要件

一般課税で仕入税額控除をおこなうときは、インボイスの受け取りが困難な一定の場合を除いて、インボイスを含む請求書等と所定の事項を記載した帳簿の両方の保存が必要になります。
ただし、課税売上高が基準期間で1億円以下または特定期間で5,000万円以下の課税事業者は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までにおこなう1万円未満(税込み)の課税仕入れについて、インボイスがなくても、これまでと同じ所定の事項を記載した帳簿のみ保存すれば、一般課税で仕税額控除をおこなえます。

※ 保存が必要となるインボイスを含む請求書等とは次のものです。
㋐売り手が交付するインボイスまたは簡易インボイス
㋑買い手が作成する仕入明細書等(インボイスの記載事項が記載されており、相手方の確認を受けたものに限る)
㋒卸売市場での生鮮食料品などの譲渡(卸売に限る)、農業協同組合などがおこなう農林水産物の譲渡について委託者から交付を受ける一定の書類
㋓㋐から㋒の書類に係る電磁的記録
※ 個人事業者の場合、基準期間はその年の前々年、特定期間はその年の前年の1月1日から6月30日までの期間です。

インボイスの受け取りが困難な一定の場合

次の取引は、これまでと同じ所定の事項を記載した帳簿のみ保存すれば、一般課税で仕入税額控除をおこなえます。
① インボイスの交付義務が免除される公共交通機関による旅客運送、自動販売機からの商品購入など(3万円未満のものに限る)
② 簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除く)を満たす入場券などが、使用の際に回収される取引
③ 古物営業、質屋または宅地建物取引業を営む事業者が、インボイス発行事業者でない者から古物、質物または建物を棚卸資産として取得する取引
④ インボイス発行事業者でない者から再生資源または再生部品を棚卸資産として購入する取引
⑤ インボイスの交付義務が免除される郵便ポストに差し出された郵便など
⑥ 従業員などに支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当などに係る課税仕入れ

インボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る経過措置

免税事業者や消費者、インボイス発行事業者の登録を受けていない課税事業者などインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、仕入税額相当の一定割合を仕入税額として控除できる経過措置(図表1)が設けられます。

※ この経過措置の適用には、インボイス発行事業者以外の者から受け取った区分記載請求書と同様の事項が記載された 請求書等の保存と、この80%控除・50%控除の特例を受ける課税仕入れである旨を記載した帳簿の保存が必要です。

納付税額を軽減する2割特例

個人の免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受けた場合、令和5年分(10〜12月のみ)から令和8年分まで計4回の消費税の確定申告で、売上げなどの課税標準額に対する消費税額の2割を納付税額とする2割特例の適用を選択することができます。事前の届け出は必要なく、消費税の確定申告書(簡易課税と一般課税のいずれも可)に適用を受ける旨を記入します。

※ 基準期間の課税売上げが1000万円を超える場合、「消費税課税事業者選択届出書」を提出して調整対象固定資産を取得し仕入税額控除をおこなう場合または高額特定資産を取得して仕入税額控除をおこなう場合などには、2割特例は適用されません。

税額計算で積上げ計算が選択可能に

インボイス制度がはじまる令和5年10月1日以降、売上税額および仕入税額の計算方法は、税込みの金額から消費税額を求める割戻し計算のほかに積上げ計算を選択できます。積上げ計算とは、インボイスに記載された消費税額(地方消費税を含む)を積上げて、その合計額から国税分の消費税額を計算する方法です(図表2)。
税額計算の方法の組み合わせは図表3の3通りです。売上税額について積上げ計算を選択できるのは、インボイス発行事業者に限られます。売上税額を積上げ計算とする場合は、仕入税額も積上げ計算になります。売上げや仕入れを税込みの金額で記帳する税込経理方式の場合は、税率ごとに区分して集計した金額をもとに税額計算する割戻し計算のほうが手間がかかりません。
list page